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遅刻の話

20111103

 
遅刻の話をします。

私は生来、パンクチュアルな人間です。
 ※パンクチュアル(時間に正確な、遅刻をしない)

 
その一番の理由はたいへん気が小さく、
つねに遅刻をしたらどうしようかとおびえているからなのです。
おまけに、
人から説教されるのが嫌いなタチなので(好きな人はいないでしょうが)、
たかだか5分、10分、時間に遅れただけで、
人から説教されたとしたら大変不愉快なので、
極力遅刻はしないように生きてきました。

 
そんな私が遅刻で大失敗したことがあります。
それは、
私が20歳代後半のころですから、
今から20年以上前のことです。
私は当時、週刊誌の編集者をしており、
ある電機メーカーA社の技術部門の取材をする企画を立て、
A社の広報部に依頼しました。
すると、
広報部の担当者Bさんが、
そういう内容であれば、
原稿はC先生がよいのではないかという提案をしてきました。

 
この手の話、
つまり、
取材先がスタッフを指定するということは、
芸能人ではよくあることですが、
企業取材では、私は初めて経験しました。
C先生というのは、
私も名前だけは聞いたことのある
ベテランのノンフィクションライターの方でした。

 
結局、
C先生にも依頼し、取材が決まりました。
取材対象になったA社の取締役技術本部長は大変お忙しい方で、
始業早々の時間なら可能だと、
朝8時30分から9時30分という時間設定となりました。
広報のBさんは、
くれぐれも時間厳守でお願いしますと言いました。

 
取材日当日、
朝からしとしとと雨が降っていました。
秋の日のやや肌寒くなってきたころだったと記憶しています。
20代のころの私は、
毎日深夜遅くまで仕事をし、それから必ず酒も飲んでいました。
その疲れと秋の日の気候が重なり、
不覚にも目覚まし時計で目覚めた直後、
つい、
うとうとと二度寝をしてしまったのです。
それは、
30~40分程度の二度寝でした。
パンクチュアルな私は、
アポイントの時間からは十分余裕を持って目覚まし時計をかけていたので、
まだ取材開始には間にあう時間でしたが、
急いで、家を出ました。

 
雨の日は電車も遅れがち、
ターミナル駅の乗り換えも傘を持った人ごみは歩きづらく、
予定以上に時間がかかり、
やっと、A社の最寄り駅に着いたときには、
8時25分になっていました。
A社はここから、徒歩10分ほどのところです。
走っていけば、何とか間に合うかも。
改札を出て目の前の道路を見上げると、
私はショックを受けました。

 
一本道の狭い歩道を、
おそらくA社へ出勤する社員の群れが延々と続いているのです。
大企業の始業前です。
数百人の人の群れです。
しかも、皆、傘をさしています。
とても、人の流れをかき分けて進むのは困難でした。
歩道はガードレールで隔離され、
車道は国道で激しい交通量です。
どうみても、この一本道の歩道を、
社員たちの流れに乗って進むしかありません。

 
結局、
A社のロビーに駆け込んだときには、
8時35分になっていました。
5分の遅刻です。
しかし、
ロビーで待ち合わせたC先生の姿は見えません。
よかった。
先生を待って、
先方に遅刻したことを謝罪すればいいなと思いました。
ところが、
待っても、待っても、C先生は現れません。

 
8時45分になってしまいました。
私はロビーの公衆電話から、
広報のBさんに電話をかけました。
ところが、
Bさんは席をはずしているというのです。

 
それもそのはず、
Bさんは取材に立ち会うために、応接室に出向いていたのです。
さらに、
電話に出た人は隣りの部署の人で、
広報部の人間は出払っていて、
Bさんがどこの応接室にいるのかわからないというのです。
私は途方に暮れてしまいました。

 
やがて、
9時になっても、C先生は現れません。
もう一度、広報部に電話してみようかと考えていると、
私に前に一人の男性がかけよってきました。

 
『週刊Rの方ですか?』
『はい、そうです』
『広報のBです。取材はもう始まっています。こちらへどうぞ』
『C先生がまだなんですけれど……』
『C先生でしたら、8時30分前に応接室に入られています』
『? ? ?』
『C先生は、何度も弊社の取材をされていますので、いつも直接応接室に入られるのです』
『そうなんですか?(聞いてないよ!)』
『8時30分と45分に、ロビーに出てみたのですが、いらっしゃらなかったようなので、取材は進めていただきました』
『あ、ちょっと、遅れてしまい、申し訳ありません。45分くらいには公衆電話のところにいて……』
私は予想外の事態に、しどろもどろになってしまいました。

 
平身低頭して取材を終え、会社に帰ると、
私は、取締役から呼び出されました。
直属の上司と一緒に、すぐに来いと。
C先生は、私の会社の編集部門担当の取締役と親しく、
取材が終わるとすぐに、
私が30分以上遅刻してきたと伝えていたのです。
さらに、
担当取締役の部屋には、
社内でも鬼のように恐れられている営業担当取締役も同席していました。
A社は私の会社のスポンサーでもあったので、
広報部から営業担当取締役にも連絡が入っていたのです。

 
私は二人の取締役から、
大切な取材に30分以上遅刻した大失態を厳しく叱責されました。
その説教は30分を優に超えていましたが、
私は自分の遅刻が原因であるだけに何の釈明もできませんでした。
心の中で、
『遅刻は30分じゃないんだよお。たった、5分なんだよう』と叫んでいました。

 
その後、私はすべてのアポイントの1時間前には到着するようになりました。

 
郊外の駅の改札を出ると、
土ぼこりの中で、
タクシーが1台止まっているだけでした。
赤くて丸いポストと崩れかけた八百屋兼雑貨屋のような小さな店が1軒あるだけの駅前です。
取材スタッフとの待ち合わせには、まだ1時間あります。
私は、
遙かかなたの山並みに視線を泳がせながら、
自分の人生を待ち合わせのためにどのくらい浪費するのだろうかと考えていました。

      

以下、次号。
(猫については、引っ越しました。
http://mukuhiro.sblo.jp/

 

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